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父親であることを楽しむために

《2014年7月1日》

 今年の父の日は6月15日。日曜日のこの日、あるいは前日の土曜日に父の日参観を実施した幼稚園も多かったことでしょう。父の日参観では、普段の保育の様子を参観するだけではなく、父子で工作などの共同作業をする園、一緒に体を動かす園など、それぞれに工夫したプログラムが組まれていたと思います。

 なかにはお父さん向けの講演会を企画する園もあり、私も講師に呼ばれてお父さんにお話をしてきました。同じ時間帯にサッカーW杯日本×コートジボワール戦があり、会場は閑散としているのではなかろうかと心配していたのですが、お父さんの子を思う気持ちは強かった(笑)。

★お父さん、担任の名前を知っていますか?

Photo 満席の会場に胸をなで下ろしながら、私がお父さんたちに最初に聞いたのは、「担任の先生の名前をフルネームで言えますか?」。意地悪にも、お父さんの“子育て情報度”を確かめようとしたわけです。サッカーより強い父の愛に期待を込めた質問でしたが、コートジボワール戦と同じくらい残念な結果となりました。パッと手を挙げたのは5~6人。100人ちょっとの参加者だったと思うので、数%ということになりますか。

 講演会の前には保育参観があったのですから、そのときに担任の先生の名前を知っていて参観するのと、知らないまま参観するのとでは充足度も違ってくると思うのですけどね。何より、先生の名前を知っていれば、わが子と会話をするときだって話題そのものが違ってきます。「○○先生って素敵だね」と言うだけで、笑顔の会話が増えるはず。

 私の質問が「担任の先生のフルネーム」だったので、ここは、姓だけ、または下の名前だけは知っているというお父さんが多かったのだと信じることにしましょう。

 実はこの質問、月刊「あんふぁん」7月号の巻頭特集「磨け! パパ力(ぢから)」の中で出題しているパパ力検定10問中の1問です。パパ力検定を実施しているNPO法人ファザーリング・ジャパンとあんふぁん編集部とのコラボ企画でした。ほかにも「わが子のお友達の名前を3人書いてください」という質問などがあります。今このコラムを読んでいらっしゃるのがお母さんだとしたら、早速お父さんに挑戦してもらって、そこから家族の会話を増やしていってほしいと思います。

★ファザーリング・ジャパンの取組み

 そのファザーリング・ジャパン(FJ)について、ちょっとご紹介しましょう。2006年に設立されたFJのスローガンは、「父親が変われば、家族が変わる。地域が変わる。企業が変わる。そして、社会が変わる」というものです。「父親であることを楽しもう!」と、設立者であり今月から再び代表理事を務める安藤哲也さんをはじめ、お父さんたちが立ち上げた組織だという点が、画期的でした。父親支援事業を展開することを目的として設立後、父親向け講演、企業向けセミナー、父子向け絵本の読み聞かせキャラバンや父子クッキング講座など次々と行動を起こし、“イクメン”という単語を広めたことは皆さんよくご存じだと思います。

 その後は“イクジイ(孫育てするお爺ちゃん)”や“イクボス(部下の私生活を応援し、自らもワーク・ライフ・バランスを楽しみ、なおかつ業績責任を果たす上司)”の養成講座も開催し、これらの単語も徐々に市民権を得てきました。父の日には各地で支部主催のイベントが行われたようです。父親が父親であることを楽しむためには、母親が母親であることを楽しむことも同時並行的に進んでいかなくてはなりませんから、最近ではお母さん向けや両親向けのイベントも用意があります。

 さらには、父子家庭を支援するフレンチトースト基金、児童養護施設で暮らす子ども・そこから巣立つ子どもを支援するタイガーマスク基金や、学生・未婚者層に結婚・出産・子育ての楽しさを伝えようという啓発事業や出張授業などを展開し、さすが男性の視野は広いと感心しています。余談ながらこれは私見ですが、女性は短期計画を立てるのが得意で、男性は中長期計画を立てるのが得意です。企業・職場などでの訓練・経験の賜物だと思いますが、私などは企業で訓練を受けても、広い視野・長期的な展望をもって計画を立てるのは苦手で、得意な人を心底うらやましく思うことがあります。

★笑わないお父さん

 話を元に戻しましょう。FJの安藤さんとは年に数回お会いする仲ですが、昨年12月に出版された彼の何冊目かの著書『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由』(廣済堂出版・ファミリー新書)を読んで、共感する部分が非常に多くありました。

 今回はその中から二つについて触れます。一つは、安藤さんがFJを設立する動機の一つともなった、「出前絵本おはなし会」で目にしたお父さんの姿です。

 彼はFJの前に「パパ’s 絵本プロジェクト」という絵本の読み聞かせボランティアをスタートさせていますが、その会場で笑える絵本を読んで、みんながゲラゲラ笑っている中、クスリとも笑わないお父さんがいることに愕然としたといいます。その隣に座っている子どもも心から笑っていない。みんなが笑うと「笑っていいのかな」という眼差しで父親を見上げるのだけれども、お父さんは表情を変えない。どこの会場にもこういう父子がいて、しかも、その数が増えていくような印象があり、「家庭に笑顔がないから子どもが笑い方を知らないのではないか。このままではまずい。笑っている父親を増やさなくては」と焦ったと。

 実は私も、お父さん向けの講演会などで同じことを感じます。お母さん向けの講演会では、大きな笑い声が上がったり、何度もうなずいて首振り人形のようになったりする人がたくさんいるのですが、お父さん向けの講演会では笑い声も少なく、無表情で反応しない人がけっこういます(話が面白くないせいかも、というのはこの際無視してください)。もちろん、熱心にメモを取るお父さんも嬉しいことにいらっしゃいますが、「とりあえず妻に言われたから来るだけ来た」という人が多い印象はぬぐえません。

 FJには「父親であることを楽しむための極意6カ条」というのがありますが、その第1条は「父親になったらOSを入れ替えよう」です。OSとは生き方。パソコンがバージョンアップしないと使えなくなってしまうように、父親も父親になる前のOSのままだと、子どもが成長したときに父親として認めてもらえないかもしれませんよ、というわけです。夫婦から家族に変化したのに合わせて、いまからでもOSの入れ替えにチャレンジし、楽しい会話が交わされる家庭を創出してほしいと思います。

★ロールモデルがいなくとも、ロールモデルになることはできる

 共感したことの二つ目は、安藤さんが書く「子どもにとってのロールモデル(模範・手本とし、学習する人物)は親だけ」という視点。書名にもあるように、お父さんが嫌いだった安藤さん。お父さんはもう他界されていますが、妻(安藤さんのお母さん)への言葉の暴力がひどく、家族のために家事を手伝うことも、笑顔あふれる温かな団らんも家族旅行もなかったといいます。そして、お父さんをロールモデルではなく反面教師にする形で、FJを設立したのだと。自分は父親のようにはならずに、子どものロールモデルにならねば、という気持ちだったそうです。

 ロールモデルにならない親をもってしまった場合、安藤さんのように「自分は親とは違う道を行くぞ。オヤジはやってくれなかったけど、やってもらいたかったことを子どもにしてやろう」と考えられる人ばかりだとよいのですが、実際にはそううまくはいかず、知らず知らずのうちに親と同じことをしてしまいがちです。

 身近な例では、私の父も安藤さんのお父さんさんとそっくりの暴君で、その父(私の祖父)とまるで同じように妻に暴言を吐いていました。私の夫は父親が船員だったためにほとんど一緒に過ごした記憶がなく、自分が父親になったときに父親のあるべき姿をイメージできず、子どもとどう接していいのかわからないと言っていました。

 こういう、親と良い関係性を築けなかった人は少なくないと思いますが、特効薬は「吐き出すこと」だと安藤さんは提言しています。男性は女性に比べて弱音を吐くのが苦手だけれど、仲間を見つけて、「俺はオヤジが嫌いだった」「同じことをしそうで怖い」「どうしていいのかわからない」と、心情を吐き出す場を確保して、と。悩めるお父さんは本書の一読をお勧めします。

 今回はお父さんのことを書いてきましたが、女性だって同じこと。ロールモデルにならない母親をもった人が、「私は自分の親とは違う道を行くわ」「母親のあるべき姿がわからない」と考えるケースもあるでしょう。

 親ですから、大なり小なりみんな子育てに悩んでいますが、いまは思い描いていた親像と異なる自分であっても、「子どもは親である自分を見ている」と意識するところから、いろいろなことがスタートするのではないかなと思います。

(文:西東桂子/絵:山本花子)

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