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「早く早く」と言わない子育て

《2013年10月1日》

 幼稚園のお母さん向けに講演を頼まれると、いくつかの話題の中に必ず、「子どもに言わないでほしい言葉」を組み込むことにしています。臨床心理学の先生たちが「言っても意味がないだけでなく、子どもが嫌な気持ちになるだけだから」と、言わないほうがよい理由を語る言葉のいくつかです。

 その筆頭が「早く早く」「早くしなさい」です。ひょっとして今朝も言ってしまいました? でも、そう言って、子どもの行動が早くなりましたか?

★早くできないのには理由がある

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「さっさと済ませて次のことをする。こんなふうに合理的なことは良いことだ」というのは大人の論理です。子どもには子どもの時間が流れていて、ものごとを早く進めることが良いことだなんていう考えはありません。早くできないのは、たとえばボタンを留めるのに時間がかかっているからであり、たとえば今やっている楽しいことをやめたくないからです。

 そんなふうに考えている子どもたちですから、「早く早く」と言われたって早くできないし、納得できないから不機嫌になります。言うほうのお母さんも問題が解決しないので不機嫌になってくる。特に朝は、登園時刻は決まっているわ園バスの来る時刻も決まっているわで、お母さんはついつい口癖のように「早く早く」が出てしまうものですが、朝っぱらから叱られて不機嫌になった子どもの中には、登園しても気持ちの切り替えがうまくできない子もいて、いいことは一つもなし! では、どうすればいいでしょう? 「早く早く」を言わないためにはお母さんのほうが工夫をしなければなりません。

 支度に時間がかかっていて、毎朝判で押したように子どもに「早く早く」と言っているのであれば、支度にとりかかること自体を早めさせるしかありません。これが一つ。

 もう一つお勧めなのが、「朝のタイムチェックポイント」を3つ決めることです。7時半になったら食卓につく、8時に出勤するお父さんを玄関で見送ったら歯を磨く、8時15分になったら靴下を履く、など何でもかまいません。時間の設定も内容も、お宅のタイムスケジュールに合わせて決めていいのです。小さな子どもは時計が読めませんから、長い針が真下に来たとき、とか、テレビやラジオの○○の番組のテーマミュージックが聞こえてきたら、など子どもがわかる時刻を選びます。

 子どもと3つの「タイムチェックポイント」を約束したら、しばらくの間はフルセンテンスで声掛けをしてください。「○○ちゃん、もうすぐ時計の長い針が真下にくるよ、テーブルに座ってね」「さぁ、お父さんがお出掛けしたから歯を磨こうか」「ほら、『ごちそうさん』が終わったよ、靴下の準備はいい?」というように。

 フルセンテンスでの声掛けは最初は面倒に思われるかもしれませんが、頑張って続けると、そのうちに半分ほど言うと「わかってるよ~」という返事が返ってくるようになります。さらにはお母さんが何も言わなくても自分で行動できるようになるのです。ここが子どもの順応性の高さの素晴らしさです。幼稚園時代に朝のリズムをつかませてしまえば、小学校に上がってもお母さんは楽をできますよ。

★少し先の見通しを知らせる

 子どもは支度が終わって準備万端。ところがお母さんのほうがまだお化粧が終わらない。それではと、子どもは待っている間、テレビを見ていようかなと考えました。そうしたら、お化粧が終わったお母さんにいきなりどやされました。「ほら、行くよ。何ぐずぐずしてるの。早くしなさいっ!」。これって濡れ衣ですよね(笑)。

 こういうときは、幼稚園の先生が活用する「ちょっと先の見通しを知らせる」のが効果的です。「○○ちゃん、あと5分でお母さんの支度ができるから、5分たったら出掛けるよ」の一言が、「早く早く」を言わずに済むことにつながるのです。

 幼稚園では、毎月のお誕生日会などでホールの椅子に座っていた年少さんが飽きてモゾモゾと動き出したとき、先生が「あと2人で終わりだよ。そうしたらお外で遊べるから、もう少し座っていられるかな?」というような声掛けをすることがよくあります。見通しを示してもらった子どもは「あと2人か、それならもうちょっとだけ我慢するか」と考えられるのです。あるいは工作遊びをしていた年中組で、作業が思ったより早く進み、昼食まで少し時間が余りました。先生が「今日は早めのお昼にしましょうか」と提案すると、子どもたちは「ちょっとだけでも遊びた~い」と希望しました。そんなとき先生は子どもたちに壁時計に注目させ、「今、長い針が真横の9のところにあるでしょ。真上の12のところに来たらお部屋に戻ってこられるなら、園庭で遊んでもいいことにしようかな」という言い方をします。そうすると、子どもたちは「わかった」といい返事をして、たった15分ですが遊びを切り上げて戻ってきます。なかには12時のところにマークを貼り付けて、よりわかりやすく工夫する先生もいます。

 これが「ちょっと先の見通しを知らせる」やり方です。

 1週間ほど前、電車の中でこれを見事に実践している若いお父さんがいて感心させられました。3歳と2歳くらいの男の子2人を連れたお父さんが急行電車に乗り込んできて、私の向かい側に座りました。子どもたちは“電車マニア”らしく、すぐに靴を脱いで膝立ちで窓の外を向くなり質問しました。「○○駅には停まる?」。お父さんはこう答えました。「さぁどうかな? 次の駅だから、一緒に見ていようね。それから今日は△△駅で降りるから、車掌さんが『次は△△です』と言ったら、靴を履くんだよ」。

 子どもたちは耳をすませていて、「あ、『次は△△です』って言った!」と、自分から体の向きを変え、ささっと靴を履きました。お父さんは何の苦労もなく、「早く早く」を発することもなく、子どもたちと手をつないでスマートに降りていきました。いや~素晴らしい!

(文:西東桂子/絵:山本花子)

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