2008年11月28日(金)
せっかくいわき市に来たのだからと、一泊して平第一幼稚園(志賀文岳理事長&園長)を見学させてもらうことにした。
同園創設者の前理事長・志賀創先生(写真)は福島県会長、全国団体(旧全法幼)副会長を務めた太っ腹な人物だったが、2000(平12)年6月28日、突然に逝ってしまった。それまでは私も、年に何度となく訪ねた幼稚園だったが、志賀先生亡き後は訪問のチャンスを見つけられず、ご無沙汰が続いていた。
幸い幼稚園は、内装は一新されたものの外観と構造は変わっておらず、懐かしい姿に再会することができた。
階段を上がって右手の理事長室を開けると、家具は一部取り替えられ、雑然と積み上げた書類は片付けられていたが、その配置、雰囲気は昔のままで、パイプをくゆらせ、大きなメガネをかけた志賀先生が、「やあ、よく来たね」とソファーから立ち上がってくるような気がした。
市長と会ったのも、オーストリアの使節団と山盛りのフルーツを食べたのもこの部屋だったが、何より、お互いの日常失敗談を自慢げに語り合ったことが昨日のように思い出される。しかし今は、あまり使われていないようだ。
本当なら息子の志賀文岳理事長が使っても良さそうだが、父親健在の時から隣接の特別養護老人ホームに自分の拠点を持っていたので今もそちらを使っている。
「この部屋はオヤジの匂いが染みこんでいる。だからここに来るのは昔と同じで、オヤジと相談したり話をするときだ。はっきりと声が聞こえてくるんだよ」と息子は言う。
その理事長を自宅に訪ねると、うまい具合に平第二幼稚園の園長をしている妻・ゆう子先生もいたので、お約束の夫婦ツーショットを撮らせてもらった。
(学)志賀学園は、いわき市内に幼稚園3園、保育園1園、老人施設3カ所、そのほか郡山市に幼稚園1園、2009年4月から公設民営の保育園が加わる大きな組織である。ご夫妻は、お互いの今日の予定を確認し合うと、慌ただしく自宅を出られた。
「幼児と老人の総合施設」、それが志賀創先生の夢だったからだ。まず平第一幼稚園の真向かいに社会福祉法人の蛍保育園をつくった。次に幼稚園の隣に特別養護老人ホーム「亀齢(きれい)荘」をつくった。
そして今回行ってみると、幼稚園の奥に大きな黄色い建物ができていた。ケアハウス恕宥(じょゆう)荘という。健康な老人が単身または夫婦で暮らす、いわば安心シルバーマンションである。
介護の必要な特別養護老人ホームでは子ども達との交流もままならないので、もうひとつ元気な老人の施設をつくったというわけである。
ケアハウスの3階ロビーから眺めると、幼稚園の様子がこんな具合に見える。あいにくこの日はひどい雨降りで、園庭に子どもの姿はなかったが、晴れた日なら、日がな一日子ども達の様子を眺めていることができる。もちろん眺めるだけでなく、園庭にも園舎内にも出ていける構造で、気が向けばいつでも幼稚園に遊びに行ける。
子ども好きなお年寄りにはたまらない施設で、子ども達のエネルギーに触れて元気が持続できることだろう。
幼稚園の真向かいにある蛍保育園の園舎
はこれ。こちらは志賀理事長の姉・久保木勢津子先生(写真)が施設長を務めている。
平第一幼稚園は器楽演奏コンクールの幼児部門で何度も全国優勝しているが、その伝統と技能は保育園でも生かされ、アコーディオンなど音楽発表会に向けての練習ぶりは見事だった。
(できればほかの施設も見てみたい)と思ったところ、それを察した志賀理事長が「僕は社会福祉法人の監査で動くことができないが、職員が自動車で案内するようにしましょう。郡山までは行けませんが」と言ってくれた。ありがたいことである。
まず訪ねたのは海岸沿いに建つ久之浜第一幼稚園。こちらも雨に降り込められて、子ども達は黙々と造形活動に取り組んでいた。机の上にはたくさんのドングリ、松ぼっくりが容器に入っている。
「これ、みんなで拾ってきたの?」と訊くと、「ちがう」と言う。ある年長の男の子が、幼稚園で遊ぼうと、お父さんと一緒に集めてきたのだという。麗しい話である。
次に訪ねたのは平第二幼稚園。ご覧のとおり、線路の枕木でつくった段々広場をのぼったところに園舎があり、背後には鬱蒼たる緑がある。
素晴らしい環境に恵まれた施設だと思われたが、この背後の山が問題で、大きな地震が起きたとき、崩れてくる心配が否定できないという。そこで少し離れた場所に土地を確保し、移転する計画を進めているそうだ。大きな組織のトップになると、そうした危険度にも迅速に対処する姿勢に改めて感心させられた。
ここではひとつ面白い発見があった。運動会のプログラムをウチワで作っていることだった。開くと飛びだしてくるような手作りプログラムを作っている幼稚園はよく見かけるが、それよりはウチワの方がずっと実用的だ。暑さよけにもなるし、応援グッズにもなる。何しろ丈夫だ。
今後、幼稚園の運動会や夕涼み会ではプログラムの主流になる気がする。いや、クリスマス会や発表会でもウチワがいいような気がする。
さて最後に訪ねたのは「養護老人ホームいわき市徳風園」。公設民営施設で、身よりもなくお金もない、いわばホームレスのような独居老人を100人受け入れられる。もちろん独居老人なので寝室はすべて個室。収納スペースも含め、1人に10畳ほどの部屋が用意されている。
共用スペースには冷蔵庫、洗濯機、乾燥機。何カ所もあるラウンジにはカラーテレビ、図書コーナーがあり、演芸やカラオケが楽しめるホールもある。もちろん立派なお風呂もある。
ちょうど昼時で、住民の多くが食堂に集まっていた。料理の中身は、大きな豚ブロック肉の入った野菜うま煮、ヒジキ煮、ご飯、野菜ジュースだった。美味しそうである。
厚労省の厳しい基準で、1人1日あたり食材費が約1000円と決められているので、おのずと充実した内容になるそうだ。ここの人達は、こうしたサービスをほとんど無料で受けられる。羨ましいことである。
老人施設の壁面が幼稚園によく似ていた。知らず知らずのうちに幼稚園のノウハウが持ち込まれたようである。幼保老一体施設ならではの風土と言えよう。