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ニッポンそば紀行「福島県郡山の蕎麦」

2016年11月20日

★お椀でわかった「こけし蕎麦」

20161109__3 2016年11月、福島県郡山市に三日間滞在する機会を得た。始発の新幹線を下り、ホームの階段を下りた真ん前に、立ち蕎麦屋があった。迷わず、かき揚げ蕎麦410円を食べた。車内販売をじっと我慢してたどり着いた朝ご飯である。
店には「そば処」としか書いてないが、底の深いお椀型の器に触れて、その昔、まだ新幹線がない時代、東北線のホームにあった「こけし蕎麦」に縁のある店だと判断した。新幹線ができた後も、私は何度も在来線の郡山駅を利用した20161109__4 が、名物こけし蕎麦は姿を消していた。「あんなに人気のあった店がどうして?」と思ったが、新幹線の構内でしっかり生き延びていたようだ。
駅西口のヨドバシカメラ前から斜めに延びる遊歩道がある。入り口には洒落た女性二人が行き交う「都会」という名の彫像があり、遊歩道の先には東横イン、郡山ビューホテルなどのホテルがある。荷物をホテルに預けてからK幼稚園に向かおう、と歩き出したとたん、「しまった!」と足が止まった。

遊歩道に面して「そばの神田」という立ち蕎麦屋があったからだ。昭和の雰囲気いっぱいのレトロな店だ。前回、郡山に来た時に、この店に気づいていた。食べてみたいと思ったが、立ち寄る時間がなかった。「この次は必ず」と思っていたのに、すっかり忘れて、新幹線の階段下で食べてしまった。それが悔しかった。「まあいい、今回はあと二日ある。必ず来るからね」と言い残し、「そばの神田」をやり過ごした。

★「安積そば」でけんちん蕎麦

20161110_ 翌日は、午後の会合の時間まで市役所、開成山公園、文学の森、久米正雄記念館、安積歴史博物館を巡る街歩きを楽しみ、クタクタになって郡山駅に戻ってきた。そこでまた「そばの神田」を忘れ、駅構内の「あさか蕎麦」に飛び込んで、けんちん蕎麦480円を頼んでしまった。認知症が進行したようだ。
けんちん蕎麦は、茨城、栃木、福島の人達が好む具沢山の田舎蕎麦だ。あさか蕎麦の一品は、具は少な目で味もあっさりした都会風田舎蕎麦だったが、けっこう美味しかった。しかし店員の愛想は悪く、テーブルはガタガタしていた。せいぜい400円の値打ちかな?と思った。しかし帰り20161110__2 際、愛想の悪い店員が、ふらつく老婆の身体を支えながら、蕎麦をテーブルまで運んでいる姿を見て、ちょっと評価を変えた。
けんちん蕎麦といえば、茨城県常北町(現・城里町)にあった蕎麦処「一二三庵」が忘れられない。丼からあふれるほど具が山盛りで、動けないほど腹一杯になった。座敷の片隅に積んである芸能雑誌はどれも10年以上前のもので、トイレのカレンダーはさらに古く、20年前のもの。大映の山本富士子が妖艶に微笑んでいた。1964東京オリンピックから時間の止まった蕎麦屋だった。「いいなぁ」と感動し、山本富士子に見られながら用を済ませたものである。
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★「そばの神田」は390円均一

さて、N幼稚園を訪問する三日目は大雨になった。雨確実の予報だったので、前日にバス路線と時間を調べておいたが、いざ駅前バスターミナルに行ってみると、1時間に1本のバスは大幅に遅れ、タクシー乗り場は長蛇の列だった。迷った結果、タクシーの列に並んだ。何とか間に合った。認知症はまだ軽かった。
昼過ぎに雨は上がり、帰りは逢瀬川沿いの土手道から軍用道路(うねめ通り)を歩いて駅に着いた。約30分。「歩いて帰る」と言ったら、幼稚園の人達は「信じられない!」という顔をしたが、大した距離ではない。しかし立派なランチをご馳走になったので、まだおなかは空かない。ビッグアイ(目玉のオヤジのような駅前高層ビル)とヨドバシカメラを1時間ほど歩き回ってから「そばの神田」に入った。
20161111__2 客はなく、取っつきにくそうな坊主刈りのオヤジが一人、厨房にいた。値段はすべて390円。わかりやすい。天ぷら蕎麦の食券を出すと、丁寧に蕎麦を茹で、慎重に天ぷらを載せ、ネギを多めに入れてくれた。繊細な職人気質のようだ。厨房は広いが客席は狭い。テーブルの幅は15センチ足らず。でも丼はちゃんと載るから問題はない。
色黒の蕎麦は腰があってうまい。天ぷらを摘もうとしたら、魔法のように姿が崩れ、汁の中にすべて溶け込んだ。揚げ玉より小さい揚げカスが一面に浮かび、小ダヌキ蕎麦になった。水溶きうどん粉を丸い形にフワっと揚げただけの天ぷらだった。呆気にとられたが、箸の先で何とか三分の一ほどを掬い取った。

食べ終わって壁を見ると、明治元年(五厘)から昭和41年(75円)までの掛け蕎麦の値段変遷表が架けてあった。それをじっと眺めて写真を撮ると、店主が「へへっ、50年もやっているもんですからね」と嬉しそうに頭をかいた。見かけによらず人なつっこい人のようだ。
「最近の値段もわかるんで、書き足そうと思ってるんですが、ついズルズルしちゃって……へっ」ともう一度、首をすくめて頭をかいた。「いや、このままでいいですよ。蕎麦屋は時間が止まっているのがいいんです」と言うと、「へっ?」と目を丸くした。いつかまた、この店に来たいものである。時間が止まっていることを願って。
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