どんぐり幼稚園と「小料理ふみ」とフランス料理
2009年1月23日(金)・24日(土)
二日がかりで大分県豊後大野市・どんぐり幼稚園(内野真奈美理事長&園長)を訪ねた。1年前に亡くなった剣豪・成田三吉郎先生が守り育てた幼稚園である。同園の様子は『月刊・私立幼稚園』本誌の幼稚園レポート(ぶらり訪問記)に詳しく記載したので読んでいただきたい。
JR豊肥線に乗って大分からちょうど1時間、朝焼けの三重町駅に着いた。8時10分。幼稚園を訪ねるのはまだ早い。しかし駅前にコンビニもマックもないだろうことは承知なので、駅の待合室に座り、持参のカロリーメイトで朝ご飯にしようと思ったら、駅の中に「おむすび王国」という、おむすび専門の売店があった。
いかにも手作り、海苔でしっかり包んである姿はまるでタドンのようだ。中の具は牛肉しぐれ煮、豚角煮、ヒジキ煮などちょっと変わっている。値段は1個180円から250円とかなり高い。しかし出張中の私は意外に太っ腹なので、迷うことなく210円の牛肉ゴボウ煮を1個買った。その判断に間違いはなかった。カロリーメイトよりずっと充実した朝ご飯になった。
駅前商店街を通ってどんぐり幼稚園に向かう。商店街のど真ん中に、成田先生ご夫妻が経営していた文具・小間物・化粧品を扱う「ナリタ」という店があったが、建物はそのままながら別の施設に変わっていた。夫が幼稚園、妻がお店と分担していたが、その妻が2001年に先立ったため店を閉じたと聞いていた。
堀川が流れる街並みは、武家屋敷風建物や白壁の土蔵があり、ここに住む人々の歴史と故郷への愛着を感じさせる。なかでもひときわレトロな建物があった。その名もズバリ「れと絽」という喫茶店である。
大正から昭和初期にかけて病院だったそうで国の登録文化財になっていると表示がある。趣のある喫茶店だろうと思うが、どうもそれだけでは立ち行かないらしく夜はカラオケ酒場になるとの看板もある。少々つや消しだが仕方ない。
「営業中」の札が下がっていた。早朝割引モーニングサービスの貼り紙もあるので中に入ってみた。きちんと片づき、カウンターにはランプの灯がともっていたが誰もいない。「おはようございます」と2度声をかけてみたが返事がない。まさかこんな朝っぱらから客が来るとは思っていなかったのだろう。
少し先に営業中のスーパーがあった。失礼ながらローカルな町で朝8時からやっているスーパーは珍しいが、客はそこそこ入っている。朝のタイムサービスがあるようだ。「れと絽」のマスターもこの中にいるのかも知れない。
スーパーの斜め前に古びた薬局があった。看板で浪花千栄子がオロナイン軟膏徳用瓶を捧げ持っている。そうだ、オロナイン軟膏だ!切り傷、ヤケド、肌荒れ、何でも効き、顔に塗っても肛門に塗っても効く。このトンマ天狗の軟膏には子どもの頃、ずいぶん世話になったものだ。
ここで会ったが100年目、是が非でも一瓶買って帰ろうとガラリと戸を開けたが、やはり誰もいなかった。スーパーのタイムサービスに出かけているのだろう。
浪花千栄子が亡くなって40年近くになるが、いまだに現役の看板娘で仕事をしているのは凄い。水原弘、美空ひばりも蚊取り線香で頑張っているが、とてもこの人には及ばない。偉大な人物である。そういえばボンカレーの松山容子もいる。大塚製薬とはきっと人を大事にする会社なのだろう。
「きっと編集長が気に入るお店だと思うわ」と、どんぐり幼稚園の内野真奈美理事長(写真左)に誘われて、夜は「小料理ふみ」と書かれた暖簾をくぐった。
カギ型のカウンターに座れるのは8人ほど。そのカウンターには、里芋とイカの煮物、トリの唐揚げ、カレイ煮付け、野菜の酢の物など女将手作りの家庭料理を盛った大皿が並んでいる。どれもこの上なく旨い。
それら料理は1人1000円で食べ放題。あとは焼酎やビールの料金を考えればいいだけで、1人2,500円もあればたっぷり満足できる。まさしく私が一番好きなタイプのお店である。
お皿の料理の減り具合を見て、新しい料理を手際よく作る女将は内野文子さん。「おや、理事長さんと同じですね」と言うと、なんと内野理事長の夫の母親だという。
内野先生の夫が小料理屋の息子だったわけではない。ずっとふつうの主婦だった文子さんは、21世紀になったのを機にお店を開いたのだという。遅咲きの自営業者なのである。
私の座っていた席の後ろ側の壁がきれいに空いていた。そこで「ママ、この壁にどんぐり幼稚園のパネルを付けさせてもらえませんかね。そこに行事のお知らせや写真を貼るんです」と相談してみた。
「あら編集長、いいこと言うじゃない。私もそれを気づかなかったわ。さっそくやりましょう」と即座にオーケーしてくれた。ふたたび豊後大野にやってくる楽しみができた。
翌日は午前中の園内研修にご一緒し、さて引き上げようと思ったら、先生方は新年会をかねて“フランス料理でランチ”と洒落込むという。そのレストランのシェフは内野理事長の夫の弟だという。家庭料理とフランス料理、さすが幼稚園と小間物屋の娘だ。面白い人脈のところに嫁に行っていたのだ。しかもこの内野先生、父親の薫陶を受けて剣道四段の腕前でもある。
あれこれ感心していると、「編集長も一緒にどうですか」と誘われた。列車の時間まで1時間しかなかったが、「え、そうですか」とニコニコついて行った。困った編集長である。
おかげで子どもの頃から噂に聞いていたエスカルゴ(カタツムリの料理)を食べることはできたが、やはり1時間では無理があった。全部の料理が揃わないうちに駅に駆け出す羽目になった。この先生方と「れと絽」やオロナイン軟膏の話をしたかったのだが、それはこの次の楽しみに残して、小雪降る大分を後にした。
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