かぴら幼稚園とチェロコンサートと70周年祝賀会
2008年11月14日(金)
★横須賀から坂戸に
埼玉県坂戸市・かぴら幼稚園(平山攝理事長&園長)の「創立70周年&叙勲記念」のコンサートと祝賀会に行ってきた。といっても場所は秩父連山を見渡す東武越生線の武州長瀬ではなく、東京のど真ん中、千代田区半蔵門の東京FMホールと飯田橋駅前のホテルメトロポリタンエドモントだった。写真はコンサートで挨拶する平山攝(おさむ)理事長。
平山先生の祖父が神奈川県横須賀市に信証高等女学校(後の信証高校)を創設したのは1938(昭13)年。海軍将校として日露戦争を経験した祖父は、「人間同士が殺し合う戦争はもうやめよう」と仏教に帰依し、その教えを広めるために学校を作った。しかし戦後は、元職業軍人という経歴が徒となって学校経営は紆余曲折を重ねた。そして横須賀の高校を閉じ、1972(昭47)年に改めて坂戸で幼稚園教育を始めて現在に至っている。海の街から山の街に移ったが、仏教主義の教育は今も色濃く息づいている。
さて、東大文学部西洋史学科卒という異色の園長、2008年春に瑞宝双光章を受章した平山先生の音楽好きはよく知られている。園務以外の時間は本を読んでいるか鼻歌を奏でていて、カラオケでは本格的歌唱力で聴衆を唸らせる。
その平山先生が学園70周年とみずからの叙勲祝賀会に音楽コンサートを開くことは大方の人が予想していたが、まさかチェロ一本だけの無伴奏コンサートになるとは思わなかった。
登場したのは水谷川(みやがわ)優子さん。日本のオーケストラを最初に創設した近衛秀麿氏(1898~1973、新交響楽団、近衛管弦楽団などの常任指揮者)のお孫さんである。
広いステージに、か弱き女性がたった一人で、一体どうなることかと案じたが、黒人霊歌「アメイジング・グレイス」から始まった演奏は、まさに2時間余の時を忘れて圧倒された。
恥ずかしながら不肖マルガリヤ、片時もウトウトせずにクラシックコンサートを聴いたのは初めてのことだ。チェロという楽器がこれほど力強く、奥行きのあるものであることも初めて知った。
演奏もさることながら、訥々としたトークも素晴らしかった。曲にまつわる歴史、ドラマ、人物を、まるで一緒にいたかのように語ってくれた。またどこかで彼女に出会えることを祈りたい。
「チェロ一本だけ。そしてバッハの無伴奏組曲を聴かせてほしい」……それが平山理事長のたっての願いだったという。「どうしてチェロを?」「チェロはいつ頃からお好きに?」などと、開演前や休憩時間に平山先生にしつこく訊いてみたが、返ってきた答は「うん」「ま」「いや」だけで真相はわからなかった。もともと口数が少ない上に、VIPなお客様への目配りで忙しかったのだから仕方がない。
その平山先生は会場後方の片隅で、一人静かに聴いていた。十分に堪能したという満足そうな表情をしていた。
半蔵門での演奏会の後は飯田橋で祝賀会。人々は皆、地下鉄かタクシーで移動したが、さいたま市・与野幼稚園の谷島正敏理事長&園長(写真)から、「1時間くらいある。歩いて行こうよ」と誘われた。
歩くのが大好きで、しかも何度も歩き回ったエリアなので、一張羅の皮靴が減るのを心配しつつも、私は喜んでお伴した。お堀端から代官町、北の丸公園、武道館を抜け、九段下を折れて飯田橋に向かった。黄昏時の東京のど真ん中に、これほど静かで暗い場所があるのに感心したが、暗がりのベンチのあちこちで、若い男女が茫然と寄り添っている光景にも驚いた。
噂には聞いていたが、11月になってもまだたくさん居るのである。「何しているんでしょうね」「さあ、いろいろあるんだろうね」「できました結婚になるといいですね」「できれば与野あたりに住んでね」と言いつつ、二人は静かに通り過ぎた。
ホテルのロビーには川越市・初雁幼稚園の野澤達也園長(写真)がいた。元高校の音楽教師で、大学ではチェロを得意にしていた人だ。同園の創立100周年記念音楽会でみずからチェロを演奏した姿は忘れられない。ところが、その野澤先生の姿が東京FMホールにはなかったのである。
「先生、どうしたんですか?」「いや、何としても聴きたかったんだけど、何ともならない野暮用が入って、どうにもならなかった」と野澤先生は悔しそうな顔をした。
「そうですか、それは残念でした」と、ここぞとばかりに私は水谷川さんの演奏と語りの素晴らしさを生々しく描写した。野澤先生の表情がさらに辛そうに歪んだのは言うまでもない。
ところで野澤先生の、1年がかりで育てた立派なヒゲは、クリスマス会でのサンタ役が終わるときれいサッパリと剃り落とされる。サンタとソリは付きものという訳だ。そして正月が終わるとまた新しいヒゲを育て始める。常に新鮮なヒゲでクリスマスを迎える、これがクリスチャンとしての野澤先生の流儀なのである。
祝賀会が始まった。司会を務めたのは、理事長夫妻の娘で、アイルランドに詳しい典子さんだった。
ここでまず気づいたのは、ご覧のとおりステージに看板がないことだった。ふつうなら、「創立70周年記念……云々」という大きな横看板が天井から下がるところだが、それがない。費用を節約したのかも知れないが、実にすっきりしていていい。「さすが東京のホテルは違う」という印象すら与えた。ちなみにステージで挨拶しているのは、(社)全埼玉私立幼稚園連合会の平原隆秀会長(春日部成就院幼稚園理事長)だ。
最後にもう1枚、麗しき和装女性と編集長のツーショット写真を載せておこう。かぴら幼稚園の教育と経営を実質的に切り盛りしている理事長の妻・康子副園長だ。
「平山先生はどうしてチェロが好きなんですか?」とここでも訊いてみたが、「そんなこと、私は知らないわよ」とのことで、チェロにまつわる何のエピソードも聞き出せないまま、祝賀会は幕を閉じた。
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